セグメント情報とは?基本情報からポイントまで分かりやすく解説
セグメント情報とは、企業の財務状況を事業単位で詳細に分析した情報のことです。
多くの方が抱く疑問の一つに、セグメント情報が具体的に何を指すのか、またそれを開示する目的は何か、そしてセグメント情報を作成する際のポイントはどういったものか、といった点が挙げられます。
この記事では、以下の3つの側面からセグメント情報に迫ります。
- セグメント情報の考え方
- 間違えやすいポイントと重要なポイント
- マネジメント・アプローチ
この記事を通じて、セグメント情報についての理解を深め、正しい情報開示が企業の透明性向上に寄与することをご理解いただければ幸いです。
セグメント情報とは
セグメント情報は、簡単に言えば「企業内の特定の事業単位で区切った財務状況の情報」を指します。
上場企業では、親会社と子会社が存在し、それぞれ異なる事業を展開していることが一般的です。例えば、セブン&アイ・ホールディングスは、コンビニエンスストア事業であるセブンイレブンの他に、金融関連事業のセブン銀行やスーパーストア事業のイトーヨーカ堂など、多岐にわたる事業を展開しています。
これら各事業の中で、どの事業が最も売上が良いのか、各事業がどれだけの利益を上げているのか、または現時点で利益が得られていない事業はどれか、といった判断を行うためには、各事業の内容を把握できるセグメント情報が必要です。
事業が多様化すると、異なる事業を行うグループ会社の財務諸表が連結され、投資家は自分が投資している会社の財務状況を理解しにくくなります。親会社を含む全体の財務状況しか分からず、投資家に誤解が生じる可能性もあります。そのため、企業はセグメントごとの情報開示が求められます。
セグメントとは、全体の財務状況を特定の構成単位で区切ったものと考えると理解が深まります。
セグメント情報の開示項目
企業がセグメント情報として開示しなければならない項目は以下の通りです(企業会計基準第17号 セグメント情報等の開示に関する会計基準 第17項)。
- 報告セグメントの概要」(第18項参照)
→報告セグメントとは、経営者が経営方法を決定するために設定されたセグメントを指します。この報告セグメントをどのように分類したのか、そのセグメントに関する基本情報(製品やサービス、地域など)を開示することが求められます。 - 報告セグメントの利益(又は損失)、資産、負債及びその他の重要な項目の額」(第19項から第22項参照) 並びにその測定方法に関する事項(第23項及び第24項参照)
→ 報告セグメントの詳細な情報は、利益・損失、資産、負債、その他の財務情報、計算方法などを含みます。 - 第19項から第22項の定めにより開示する項目の合計額とこれに対応する財務諸表計上額との間の差異調整に関する事項」(第25項及び第26項参照)
→ (2) で計算された各項目の合計(例: 売上額)と、独自に作成された財務諸表の金額との誤差が生じている場合、その差異がどれほどか、ならびになぜ誤差が発生しているのか、その原因を明確に開示する必要があります。
セグメント情報の考え方
セグメント情報の例を簡単にご紹介します。
海外事業 | 金融事業 | サービス事業 | その他事業 | |
---|---|---|---|---|
売上高 | ||||
セグメント損益 | ||||
減価償却費 |
横軸にデータ項目、縦軸に報告セグメントを表示する形式が一般的です。セグメント情報は金融庁のEDINET等で有価証券報告書を検索し、連結財務諸表等の注記を探せば簡単に見つかるため、気になる企業のセグメント情報を検索してみることをお勧めします。
それでは、セグメント情報はどのような単位で考えれば良いでしょうか。一つの例をご紹介します。
- A株式会社は、A事業を展開しています。
- B株式会社は、B事業を運営しています。
- P株式会社はA株式会社とB株式会社の親会社であり、A事業やB事業をそれぞれの部門として組織しています。
例えば、A事業において、P株式会社が製品Aを製造し、A株式会社がそれを販売しているとしましょう。
この場合、P株式会社内のA事業とA株式会社は「同一セグメント」と見なされます。このように、同一の事業を展開している場合、異なる企業であっても同一セグメントとして扱います。ただし、このセグメントの定義方法を明確に記載することが重要です。
間違えやすいポイント
セグメント情報で誤りが生じる可能性が高いのは、情報の区分方法に関する部分です。
言ってしまえば、セグメント情報は「経営方針の考え方」を示す情報と言っても過言ではありません。経営者の視点で経営状況を捉え、それをセグメント情報に反映することが必要です。セグメント情報は単なる財務情報の提示にとどまらず、企業の経営手法やポリシーが読み取れる重要な情報です。従って、正確な区分で情報を開示することは企業の信頼性に直結します。
もう一つの重要な点は、状況の変化を適切に反映しているかどうかです。例えば、固定資産の減損損失が発生した場合や、企業買収によってのれんが発生した場合、セグメントごとに情報を見直し、開示する必要があります。減損損失は「赤字なので早めに損失を計上し、経営回復を目指す」方針の変更を示唆するものであり、それに伴い会計処理も変更が必要です。財務状況に大きな変動がある場合、その変化がセグメント情報にどのような影響を与えるかを事前に予測しておくことが重要です。
重要なポイント
セグメント情報を理解する上での重要なポイントは「事業セグメント」です。事業セグメントの要件は、以下の通りです。
(i) 収益を稼得し、費用が発生する事業活動に関わるもの(同一企業内の他の構成単位との取引に関連する収益及び費用を含む。)
(セグメント情報等の開示に関する会計基準 第6項)
(ii) 企業の最高経営意思決定機関が、当該構成単位に配分すべき資源に関する意思決定を行い、その業績を評価するために、その経営成績を定期的に検討するもの
(iii) 分離された財務情報を入手できるもの
ただし、新たな事業を立ち上げたときのように、現時点では収益を稼得していない事業活動を事業セグメントとして識別する場合もある
簡潔に言えば、事業セグメントは1つの企業内の事業ごとに見て、組織や会計上の区分に基づいて分けられたセグメントです。事業セグメントの考え方を踏まえて、報告セグメントを作成します。
報告セグメントは、経営者が経営方法を決定するためのセグメントに対して、事業セグメントは報告セグメントを作成する上での基盤となる情報です。事業セグメントを元にして、報告セグメントを作成し開示する流れになります。
インダストリー・アプローチ
インダストリー・アプローチは、これまでの会計基準において、財務諸表を産業別や事業別にセグメントを分けて開示する手法です。この方法は2010年4月1日まで採用されていましたが、現在はインダストリー・アプローチからマネジメント・アプローチへと会計基準が変更されています。
マネジメント・アプローチ
マネジメント・アプローチは、業績を評価するために経営者が必要とする情報、または事業の構成単位で区分する手法です。言い換えれば、マネジメント・アプローチにおいては、経営者の経営管理に合わせてセグメントを区分して開示する形になります。
マネジメント・アプローチのメリットは、財務諸表を見る人が経営者の視点で企業を理解できることであり、企業の将来キャッシュフローを予測できる点が挙げられます。既存の内部資料からの情報整理で済むため、新たな情報の収集にかかる追加費用が少なく済むのも利点です。さらに、実際の企業構造に基づいた区分を行うため、恣意性が少ないという点もメリットの一つです。
事業セグメントの集約
事業セグメントの集約とは、複数の事業セグメントの中で経済的特徴が類似している場合に、それらを一つのセグメントにまとめることを指します。
事業セグメント集約の基準は、以下の通りです。
(1) セグメント情報を開示する基本原則(第4項参照)と整合していること
(2) 当該事業セグメントの経済的特徴が概ね類似していること
(3) 当該事業セグメントの次のすべての要素が概ね類似していること(セグメント情報等の開示に関する会計基準 第11項)
- 製品及びサービスの内容
- 製品の製造方法又は製造過程、サービスの提供方法
- 製品及びサービスを販売する市場又は顧客の種類
- 製品及びサービスの販売方法
- 銀行、保険、公益事業等のような業種に特有の規制環境
上記の全ての要素が該当するセグメントは、集約の対象となります。例えば、2つの事業セグメントが同様の製品を同じ製造方法で生産し、同じ市場で同様の販売手法を用い、同じ規制環境に属している場合でも、経済的特徴が概ね類似していなければ集約は行われません。
まとめ
セグメント情報の正確な開示は企業の財務状況を理解する上で不可欠です。特に事業セグメントの集約においては、経済的特徴が類似しているかどうかが重要な基準となります。これは、製品やサービスの内容、製造方法、販売手法、市場や顧客の種類、そして業種に特有の規制環境など、複数の要素が一致する場合に集約が行われるという原則に基づいています。
以前のインダストリー・アプローチからの変更として、現在のマネジメント・アプローチは、経営者が企業の業績を評価するために必要な情報に焦点を当てます。これにより、財務諸表を見る人が経営者の視点で企業を理解し、将来のキャッシュフローを予測することが容易になります。事業セグメントの集約基準を理解し、経済的特徴の類似性を考慮することで、企業はより透明かつ信頼性のあるセグメント情報を提供し、投資家や利害関係者に適切な情報を提供することができます。セグメント情報は企業の経営方針や将来の展望を理解する重要な手段であり、正確で透明性のある開示が不可欠です。