会計監査人と監査役の違いとは – 定義・業務内容について

2023-11-01
2023-02-06
会計監査人と監査役とは-定義・違い・業務内容について

会計監査人と監査役は、企業の経営や財務管理に関わる重要な役割を担います。これらのポジションは、企業のコンプライアンスや透明性を確保するために必要な存在です。本記事では、会計監査人と監査役とは何か、それぞれの役割や業務内容について詳しく説明します。

会計監査人とは

会計監査人は株式会社における機関のひとつで、会社の計算書類などを会計監査することを主な職務・権限とします。公認会計士または監査法人のみが就任することが出来ます。会社法、金融商品取引法などの設置要件を満たした株式会社に対して会計監査人の設置が義務づけられます。
私立学校振興助成法にもとづいて国等から補助金を受ける学校法人なども法律で定められた監査を受けていますが、当記事では株式会社の会社法監査と金融商品取引法監査のみを扱います。

会社法での規定

会社法では、「株式会社は、定款の定めによって、取締役会会計参与監査役監査役会会計監査人監査等委員会又は指名委員会等を置くことができる。」(会社法326条2項)とされています。また「会計監査人は、公認会計士又は監査法人でなければならない。」(会社法337条1項)とされており、厳格な資格要件がある点に注意が必要です。
会社法上の大会社又は委員会設置会社には会計監査人の設置が義務づけられています。それ以外の会社においても定款に定めることにより、会計監査人を設置することができます。

大会社とは

大会社とは、規模の大きな会社のことで会社法2条6項で下記いずれかであることと定義されています。

  1. 最終事業年度に係る貸借対照表の資本金が5億円以上であること
  2. 最終事業年度に係る貸借対照表の負債が200億円以上であること

社会に対する影響力の大きさから、会計監査人の設置義務や内部統制整備義務、損益計算書の公告など多くの規制が設けられています。

任期

会計監査人の任期は1年です。株主総会で別段の決議がされない限り、原則として再任されます。ただし会計監査人設置会社が会計監査人をおく旨の定款の定めを廃止した場合は、会計監査人の任期はこの定款変更の効力が発生した時に満了します。

業務内容

会計監査人の職務は、株式会社の委任を受けて会社法により株式会社の計算書類および附属明細書、連結計算書類、臨時計算書類の監査証明を行う権限を有する株式会社の役員等のことです。
監査を受けた計算書類が取締役会の承認を受け、さらに所定の要件を満たす場合、計算書類は株主総会で承認が不要となり、報告さえすればよいものとされています。

権限・義務

会計監査人には、会計監査に関する権限が与えられています。

  • 会計監査人は、会計帳簿およびこれに関する資料を閲覧・謄写し、または監査対象会社の取締役及び会計参与並びに支配人その他の使用人に対して会計に関する報告を求めることができます(会社法396条2項)。
  • 必要な場合には、子会社に対して会計に関する報告を求め、子会社の業務および財産の状況を調査することができます(会社法396条3項)。

一方、会計監査人は会計監査において、取締役・執行役の職務執行に関して不正行為または法令・定款に違反する重大な事実を発見した場合には、以下の機関に報告する義務を負っています。

  • 監査役会設置会社では監査役会
  • 監査等委員会設置会社では監査等委員会
  • 指名委員会等設置会社では監査委員会
  • 上記以外では監査役

監査役とは

監査役とは、株主総会で選任される会社法上の役員をいいます。監査役は株主総会、取締役会等と並ぶ株式会社の機関の一つです。
主な役割は、会社経営の健全性や適正性を担保することです。例えば、取締役が行っている職務に対して、不正がないかを独自に調査し、取締役会や株主総会で報告し、不正行為差止請求を行う権限を持ちます。

任期

監査役の任期は会社法により原則4年とされており、株式の譲渡制限を定めている非公開会社は定款によって10年までの延長が可能です。
なお、任期満了後に同じ人が監査役として再任する場合でも、登記が必要となります。

業務内容

監査役は、監査役監査基準2条1項において以下のように定義されています。
「株主の負託を受けた独立の機関として取締役の職務の執行を監査することにより、企業の健全で持続的な成長を確保し、社会的信頼に応える良質な企業統治体制を確立する義務を負っている」

つまり、監査役は取締役の職務の執行を監査すること、そして監査報告を作成することがその職務となります。 

原則として会社の規模にかかわらず「会計監査」と「業務監査」の両方の権限を有します。

  • 会計監査とは、会社が作成した計算書類等が正しく作成されているかを監査することです。
  • 業務監査とは、会計以外の事業報告が正しいか、会社の業務が法令や定款に違反することがなく行われているのかを監査することで、一般に適法性監査と呼ばれています。

種類

企業の監査役には、社内監査役社外監査役があり、それぞれが常勤監査役非常勤監査役に分かれます。

社内監査役とは

社内監査役とは当該企業の役員や従業員の経歴がある社内出身の監査役のことを指します。会社の内部事情を熟知しており、監査のための情報収集や調査をしやすい点がメリットです。一方、客観性に欠け、十分にチェック機能を果たせない可能性も懸念されます。

社外監査役とは

社外監査役とは外部の人材から選任されるものです。会社のコーポレートガバナンスの強化のため下記要件を満たすことが要求されています。

  • 就任前の10年間、当該株式会社又はその子会社の取締役、会計参与若しくは執行役又は支配人その他の使用人であったことがないこと。
  • 就任前10年以内に当該株式会社又はその子会社の監査役であったことがある者にあっては、当該監査役への就任前の10年間当該株式会社又はその子会社の取締役、会計参与若しくは執行役又は支配人その他の使用人であったことがないこと。
  • 親会社等の取締役、監査役、執行役、または支配人その他の使用人でないこと。
  • 親会社等の子会社等の業務執行取締役等でないこと。
  • 当該株式会社の取締役や支配人その他の重要な使用人などの配偶者ではない、二親等内の親族ではないこと。

(取締役と執行役の違いはこちら

常勤監査役とは

常勤監査役とは、他に常勤の仕事をしておらず、業務時間中はその会社の職務に従事している監査役です。どのくらいの勤務状況で「常勤」とみなすかの決まりは会社法にありません。一般的に週に3日から4日以上出社する監査役が常勤とみなされます。常勤監査役は社内監査役である場合が多いです。

非常勤監査役とは

非常勤監査役とは、常勤監査役以外の監査役を指します。取締役会や監査役会への出席のために月に数回程度出社するような役員です。非常勤監査役は、社外監査役である場合が多いです。

監査役会とは

監査役会とは、複数の監査役により形成され、監査報告の作成、常勤の監査役の選定・解職、監査の方針、業務及び財産の状況の調査方法、その他の監査役の職務の執行に関する事項を決定する会社の機関です。
また監査役会は、監査役3名以上が必要であり、そのうち半数以上は社外監査役でなければならず(会社法335条3項)、常勤監査役も選定しなければなりません(会社法390条3項)。

会計監査人と監査役の違い

会計監査人は、公認会計士もしくは監査法人でなければならないという厳格な資格要件がある点、そして外部の独立した第三者であるという点で監査役と異なります。
監査役は、社員として勤務してきた人が就任するケースも見られますが、会計監査人は職業的専門家である必要があるため資格要件が厳格になっています。「監査役」は内部のチェック機関であり、「会計監査人」は外部のチェック機関である公認会計士や監査法人と言えます。

会計監査人と監査役の連携の必要性

会計監査人と監査役は、それぞれが担う監査の実効性を確保し、有効性及び効率性を高めるために相互の連携が求められています。また、その職務を通じて企業不祥事の発生防止を始めとした企業活動の健全化を図り、企業の持続的な成長と中期的な企業価値の向上に貢献することが期待されています。

日本公認会計士協会の監査基準委員会報告書260「監査役等とのコミュニケーション」においても、両社の連携は、以下の理由により重要であるとされています。

  • 監査人による監査役等、内部監査部門、社外取締役との十分な連携の確保、監査人の指摘等に対する会社側の対応体制の確立すること
  • 監査役等が業務監査から得る情報は監査人の監査にも有用であること
  • 財務報告プロセスの監視する責任を有する監査役等が、財務諸表の重要な虚偽表示リスクを軽減すること

まとめ

外部のチェック機関である公認会計士もしくは監査法人でなければならない会計監査人と、取締役の業務執行の監督を主たる職務とする監査役。その間には独立した第三者か、そうでないかという違いがあります。しかし、これら機関はともに会社の適正な財務報告や業務執行を担保する上で不可欠な存在であり、両者の連携はますます重要性を増しています。

参考文献
・マイナビ会計士:https://cpa.mynavi.jp/column_mt/2022/12/870.html
・日本公認会計士協会:https://jicpa.or.jp/business/inspector/
・会社法:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=417AC0000000086
・A.G.S:https://www.agsc.co.jp/ags-media/auditor/

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