オートメーション化導入の背景とは-種類やメリット・デメリット、取り組み例を解説
昨今、AIの進歩は目覚ましいものがあります。オートメーション化も日々進化し、ヒトを介することなく自動的に作動・コントロールすることが可能になっています。従来のRPAにAIを導入させたIA(インテリジェントオートメーション)の導入も進んでおり、オートメーション化から目が離せません。一方で、オートメーション化にはさまざまな課題が存在します。
企業経営者は、オートメーション化導入前にどのような課題があるかを想定し、また課題に直面した場合にはどのように対策を講じるべきかを想定しておくことが必要です。
本記事では、オートメーション化のメリット・デメリットを説明し、導入に伴う課題や対策、オートメーション化に向けた取り組みの事例について解説します。オートメーション化を導入する際にチェックすべきポイントや、オートメーション化がもたらす業務の効率化について紹介しています。ぜひ参考にしてください。
オートメーション化とは
オートメーション化とは、ヒトを介することなく自動的に作動させる・コントロールすることです。人的労力に頼らず作業ができ、生産性を一定に保ち、かつ長時間作動が可能です。ここでは、企業がオートメーション化を導入するに至った背景や種類について解説します。
オートメーション化を企業が導入する背景
近年、オートメーション化が企業に浸透してきた背景には、以下の2つの要因が挙げられます。
- 少子化に伴う労働人口の減少
- 働き方改革による生産性向上の必要性
1.少子化に伴う労働人口の減少
総務省によると、1995年から生産年齢人口(15~64歳)が減少し、2021年には7,450万人、2050年には5,275万人(2021年から29.2%減)に減少する見込みです。しかし、生産年齢人口が減少するからといって、企業は生産性を低下させるわけにはいきません。
そのため、企業は生産性の維持や向上のためにオートメーション化を導入するようになりました。今後も、オートメーション化の導入や実施に取り組む企業が増加すると予想されます。
2.働き方改革による生産性向上の必要性
企業がオートメーション化を採用するもう一つの要因が働き方改革です。2019年に施工された働き方改革関連法により、時間外労働の上限規制が行われることになりました。
マンパワーによる生産性に限界が生じる中で、企業はオートメーション化を導入することで改善策を講じるようになりました。オートメーション化の導入により、従業員の時間外労働を気にすることなく、生産性を維持あるいは向上することが期待されています。
オートメーション化の種類
オートメーション化を導入する企業が増えてきていますが、オートメーション化にはどのような種類があるのでしょうか。次の3種類について紹介します。
- RPAによるオートメーション化
- AIによるオートメーション化
- RPAとAIとをミックスしたIA
1.RPAによるオートメーション化
RPAの特徴として、定型的な処理が得意とされている点があります。例えば、請求書や経費の処理等、繰り返し入力する作業や、ヒトが逐次確認が必要なデータ登録、システム管理、顧客データや異常値のチェックなどが挙げられます。一方で、非定型的な処理が得意ではありません。
具体的には、個々に判断を要する業務や、複雑な規則が存在する業務が該当します。
2.AIによるオートメーション化
AIの特徴として、ヒトが与えた情報や判断基準等をもとに、自ら最適な解答を導き出すことがあります。AIの技術が進歩するにつれ、機械自身がルールや判断基準を見つけ出し、ヒトがいなくても臨機応変に解答を導き出す力が備わってきています。例えば、機械の故障事例から、故障の原因がどこにあるかを、機械自身がルールを生成し、実行することができます。
つまり、AIはヒトを介在なしに、非定型な業務をこなすことが得意とされます。
3.RPAとAIとをミックスしたIA
最近では、RPAとAIをミックスしたIA(インテリジェント・オートメーション)が主流になりつつあります。IAは、RPAが得意とする定型的な処理と、ヒトを介さずに非定型な業務をこなすAIを融合したオートメーション化を指します。IAは効率化はもちろんのこと、変化の激しいビジネス環境に柔軟に適応できるため、ヒトの介在なしに情報処理を行うことができるオートメーションとなります。
オートメーション化のメリットとデメリット
一般的に生産性の維持や向上を目的としてオートメーション化を導入することを考えます。
ここでは、オートメーション化には具体的にどのようなメリットやデメリットがあるのかを紹介します。
メリット
オートメーション化のメリットには、以下の5点があります。
- 人員が少なくて済む
- 品質にムラがなくなる
- 人件費が削減できる
- ミスやトラブルの減少が見込まれる
- リスクの高い場所で作業できる
それぞれについて説明します。
1.人員が少なくて済む
オートメーション化を導入することで、作業に携わる人員が少なくて済みます。特に、長年人手不足に悩まされている企業にとっては、オートメーション化を採用することで、これまでの悩みが解決できるでしょう。
また、進歩したオートメーション化の導入により、今まで以上の生産性をもたらしてくれるかもしれません。
2.品質にムラがなくなる
ヒトが生産する製品は、品質にばらつきが生じることがあります。欠陥商品が市場に出回ることで、消費者から苦情を受ける場合があるかもしれません。オートメーション化の導入で製品の品質が均一になり、ムラがなくなるのもメリットといえるでしょう。
高度なオートメーション化により、精度の高い製品を大量に生産できることが見込まれます。
3.人件費が削減できる
オートメーション化の導入により、今までヒトが行ってきた生産を自動化することで、必要人員が減り、人件費が削減できる点もメリットとして考えられます。
ヒトを減らすことで、社員一人にかかる教育コストも抑制可能です。
また、製品の製造工程を自動化することで、繁忙期に発生する残業代の抑制にもなります。
4.ミスやトラブルの減少が見込まれる
ヒトが製造に携わると、故意でなくても集中力を欠いたりすることでヒューマンエラーが発生することもあります。
労務面においても、労働基準法に定められた範囲を超えた労働時間を強いられ、トラブルに発展する恐れも考えられます。
ヒトに代わってオートメーション化を導入すれば、ヒューマンエラーやトラブルが減少し生産以外に発生する時間もなくなるため、効率的な生産が可能になるでしょう。
5.リスクの高い場所での作業が可能
ヒトが製造する場合、ミスによってケガや火傷を負ったり、場合によっては生命の危機に直面したりする作業もあるかもしれません。
このようなリスクと背中合わせになるような作業を、機械化を導入することで、ヒトが直面する可能性のあるリスクを回避することができます。
また、労働状況によっては、風邪や熱中症にかかるリスクもあるため、機械がヒトに代わることで、生産性を維持できます。
デメリット
オートメーション化のデメリットには、以下の5点があります。
- 購入・維持に費用がかかる
- 管理者が必要
- 万全に作業をこなせる保証がない
- 故障の恐れがある
- 機械を設置するスペースが必要
1.購入・維持に費用がかかる
オートメーション化を図るためには、機械を購入し、維持するために費用が必要です。規模により費用は異なりますが、通常、数十万から数百万円が必要になります。工場全体を完全オートメーション化する場合は、より多くの初期投資が必要となるでしょう。また、機械を維持するためには、メンテナンス等にも費用が必要です。
オートメーション化により、人件費を削減するメリットがありますが、初期投資費用が大きいため、現状の財務状況等を勘案して決定する必要があるでしょう。
2.管理者が必要
機械が行う動作のプログラミングを理解できる管理者が必要になります。そのため、専門的な知識を持った人材を育成するか、あるいは外部から専門的な技術者を採用する必要があります。機械化の導入を図る場合、管理者の確保が必要であることを企業は認識しなければならないでしょう。
オートメーション化によるコントロールは最終的に「ヒト」によって行われるため、その点にも注意が必要です。
3.万全に作業をこなせる保証がない
オートメーション化は生産性の向上に貢献できますが、高級レンズ製作のような繊細な作業には、まだ人間の技能には及ばない分野もあります。
そのため、オートメーション化によってすべての作業を万全にこなせる保証はないことを認識する必要があります。
4.故障の恐れがある
オートメーション化により生産性を向上できますが、機械が作業するため、故障するリスクからは逃れられません。機械が停止すると、メンテナンスを行い正常に作動するまで、生産性はゼロになります。
オートメーション化導入を検討する際には、故障のリスクも念頭に入れておく必要があるでしょう。
5.機械を設置するスペースが必要
オートメーション化を導入すると、工場内に機械を設置する必要があります。
そのため、事前に導入する機械の大きさを認識し、スペースを確保する必要があります。
物理面も考慮することで、生産性に影響が出るだけでなく、入りきらない場合には別のスペースを借りる必要があるかどうかも検討する必要があるでしょう。
オートメーション化に伴う課題と対策
オートメーション化に伴う課題
オートメーション化を導入しても、作業がスムーズに行われるとは限りません。
ここでは課題として考えられる以下の5点について解説します。
- エラーがたびたび起こる
- 技術者の囲い込みが難しい
- 考えている業務に対応できない
- 費用対効果が見込めない
- 社内にオートメーション化が浸透していかない
1.エラーがたびたび起こる
プログラミングに関する専門知識がないまま導入すると誤作動や予想しない動作が発生する可能性があります。
エラーが頻繁に発生すると、オートメーション化による業務の改善が見込めなくなるリスクがあるため、注意が必要です。
2.技術者の囲い込みが難しい
オートメーション化を採用する場合、専門知識やスキルを有した技術者が必要になります。
エラーが発生しても適切に対応できなければ、生産性が損なわれます。
専門的な知識が必要なため、一般社員とは別に人材確保が必須であり、想像以上にコストがかかる点に留意する必要があります。
3.考えている業務に対応できない
導入する機械がどのような業務に対応できるかを事前に把握しておかなければなりません。
例えば、RPAは定型的な動作には強みを発揮するものの、非定型的な動作には弱い側面があります。
機械の得手不得手を認識せず導入すると、入れ替えが必要になるリスクがあるため、機械が適した業務を把握して導入するようにしましょう。
4.費用対効果が見込めない
人手不足に備えてオートメーション化を導入するも、エラーや対応可能な業務の限定等、コストに見合った生産性が見込めない場合があります。
従業員がオートメーション化に協力的でなかったり、メンテナンスに時間がかかったりすることで、想像していたオートメーション化のメリットを見出せない恐れがあるので、注意が必要です。
5.社内にオートメーション化が浸透していかない
オートメーション化を社内に導入するも、従業員の意識が低い等の理由で、社内に浸透しないことがあります。
オートメーション化に携わっていない従業員はメリットを享受できないため、関心が低くなりがちです。
そのため、社内全体にオートメーション化を浸透させることができない可能性があります。
オートメーション化への対策
オートメーション化を採用したものの、導入前に描いていたシナリオとは異なる事態が発生する可能性があるかもしれません。
そのような場合に企業が講じる対策について紹介します。
オートメーション化への対策として、次の5つの方法があります。
- 何のために導入するのかを明確にする
- 技術者の援助を仰ぐ
- 最小限に抑えてスタートする
- 運用マニュアルを制定する
- 企業全体で活用の意識を共有する
1.何のために導入するのかを明確にする
通常、オートメーション化を導入する企業は、作業効率の向上を目的としています。
それぞれの企業は、導入した目的を明確にし、その目的に向けて業務を遂行することが重要です。
例えば、「作業時間の〇〇時間の短縮すること」や「ヒューマンエラーの発生を減らすこと」など、目的を明確にすることが必要です。
また、導入したオートメーション化ができることとできないことを切り離して考えることも重要です。
2.技術者の援助を仰ぐ
オートメーション化をはじめて導入した企業は、一般社員がシステム開発の知識に乏しいことが多いため、技術者の援助を仰ぐことが大切です。
プログラミングを専門としている人からサポートを受けることで、運用がスムーズとなり、同時にメンテナンスについての学習も可能となります。
3.最小限に抑えてスタートする
オートメーション化をスタートする場合、業務を少しずつ確認しながら進めることを推奨します。
一気に全ての業務に導入し、故障等トラブルが発生した場合、生産性がゼロになる恐れがあります。
また、対応できない業務が判明すれば、無駄なコストが発生しかねません。
業務がオートメーション化に対応できることを確認しながら、少しずつ導入を進めることが重要です。
4.運用マニュアルを制定する
オートメーション化を導入はしてもトラブルが多発するようでは、生産性の向上が見込めません。
企業は運用マニュアルを作成して、社内であらかじめルールを決めておくのがいいでしょう。
トラブルの度合いに応じて、技術者に依頼しなくても対応可能な場合もあるため、機械が停止した場合の手順書を作成することも有効です。
5.企業全体で活用の意識を共有する
オートメーション化を導入する目的は、生産性の向上を図るためです。
オートメーション化を導入することが目的ではありません。
企業が導入を決めた場合、経営陣や責任者は従業員に対して、導入の目的や理由を説明する必要があります。
また、従業員全員が導入の意義を理解し、共有することが必要です。
これによって、企業全体で効果的にオートメーション化を活用できるようになります。
オートメーション化に向けた取り組みの例
オートメーション化に向けて、企業の取り組み事例について紹介します。
- AIを活用したプロセス自動化の例
- ロボットによる物流・製造の自動化の例
- デジタルツインによる製品開発の効率化の例
AIを活用したプロセス自動化の例
AIの特徴は、自律性による誘導なしでの作業実行能力と、経験に基づく処理能力の向上による適応性を備えている点にあります。
RPAが主に定型的な処理に適しているのに対し、AIは非定型的な処理に優れているとされています。
AIを活用したプロセス自動化の事例として、以下のものがあります。
1.帳票処理の自動化および契約書のレビュー
データ入力や抽出、集計、出力、分析などの業務にAIを導入することで、処理が可能となります。
さらに、契約書のレビューにもAIを活用することが可能です。
2.チャットボットやカスタマーサービス
オペレーターに代わって、AIが顧客対応を行ってくれます。
また、対外的な対応だけでなく社内においても利用されています。
3..建設現場等での設備の保全や異常検知
AIは、建設現場など従業員の危険度が高い領域での侵入や、重機などの機材との接触の検知にも用いられます。
また、建造物や道路のメンテナンスにも活用でき、人的作業の軽減にも役立ちます。
4..医療のサポート
医療現場でもAIが活用されています。
AIはレントゲンやMRI等の画像から病変を感知し、医師のサポートを行い、早期発見に貢献することができます。
ロボットによる物流・製造の自動化の例
物流・製造のオートメーション化には、ロボットを利用します。
ロボットによる物流・製造の自動化の事例として、次のようなロボットがあるので紹介します。
1.AGV(自動搬送ロボット)
AGV(Automatic Guided Vehicle)とは、無人搬送車、無人搬送ロボットのことをいいます。
保管や運搬を自動化するためのロボットで、荷物を目的地まで運ぶことが可能です。
種類としては、フォークリフト型や積載型、牽引型などがあります。
2.ピースピッキングロボット
ピースピッキングロボットは、凹凸のあるさまざまな形状の製品の仕分けを自動化するロボットです。
単純作業であるため、省力化が図られ、人的ミスを防止できる利点があります。
3.パレタイジングロボット
パレタイジングロボットは、箱詰めされている製品を決められた配置で並べ替えや積み込みを自動化するロボットです。
手作業で行う場合に起こりうる腰痛等の労務リスクが軽減され、生産過程の合理化が図られます。
デジタルツインによる製品開発の効率化の例
デジタルツインとは、あらゆるデータを収集して、現実の世界をデジタルの空間上に再現させることです。
製品開発においては、デジタルツインの活用によって効率化が図られることがあります。
具体的な例として、以下のようなものが挙げられます。
1.製造業の事例
工場の建物や設備等の情報をデータ化し、デジタル空間に工場を再現します。
工場に設置されている各機器およびコンディションデータを遠隔にて管理でき、機器類の異常を把握し、迅速な対応が可能となりました。
2.都市設計の事例
都市設計において、実際に建物を建設する前に、交通量や人の流れ、および都市機能をデジタル空間にシミュレーションで検証することがあります。道路や鉄道などの交通網や災害が発生した場合を組み合わせることで、より正確な都市設計を行うことができます。
3.建設業の事例
建設業界では、人手不足が顕著なため、デジタルツインを
まとめ
オートメーション化は、ヒトを介することなく自動的に作動・コントロールが可能です。近い将来、労働人口の減少が予測されていますが、オートメーション化の導入により、生産性や製品品質の維持・向上が期待されています。一方で、コストがかかることや、機械であるため故障のリスクがあることなども考慮する必要があります。
今後、AIの進化とともに、オートメーション化もますます進歩していくでしょう。企業がオートメーション化を採用する場合には、導入後に直面するかもしれない課題や対策を十分認識し、対応する必要があるでしょう。