4統制の業務プロセス統制と決算統制とは-わかりやすく解説

4統制の業務プロセスと決算・財務報告とは-わかりやすく解説

内部統制は、全社統制(IT全社統制)、業務プロセス統制、IT統制(IT全般統制・IT業務処理統制)、決算統制(全社・個別)の4つに区分されます。特に重要なのは、「業務プロセス統制」と「決算統制」です。これらの内部統制の実態を正しく理解することは、組織の信頼性と成長にとって欠かせません。

業務プロセス統制は、日々の業務の中で無意識に行われる統制です。これは、組織における「隠れた内部統制」とも言えます。一方、決算・財務報告プロセスにおける内部統制である決算統制は、財務報告の信頼性に直接的な影響を与える重要な統制として位置づけられています。

組織の成長を促すためには、業務プロセス統制と決算統制のキーポイントを正しく把握することが重要です。この記事では、これらの統制に関する重要なポイントを分かりやすくまとめました。組織の成長に向けて、ぜひ参考にしてください。

業務プロセス統制

業務プロセス統制とは、企業活動において通常に行われる業務に組み込まれ、一体となって遂行される統制の仕組みを指します。
以下では、業務プロセス統制の具体的な内容について解説していきます。

業務プロセス統制とは

前述した通り、業務プロセス統制とは、組織の業務プロセスにおいて発生するリスクを管理し、内部統制を確保するための枠組みです。
具体的には販売管理や購買管理、経理業務などの業務に関連する内部統制を指します。

例えば、支払プロセスでは、以下のような流れが考えられます

  1. 請求書受領
  2. 根拠資料(納品書など)との突合せ
  3. 支払申請
  4. 上長の支払承認
  5. 支払
  6. 帳簿記入
  7. 上長の帳簿確認

業務プロセス統制では、財務諸表作成に影響する不正や誤謬(ミス)を予防したり発見するための仕組みが重要です。
上記の例では、根拠資料の突合せ、上長の支払承認、上長の帳簿記入確認などが内部統制の一部です。

業務プロセス統制の評価範囲

業務プロセスの評価範囲を検討する前に、まず重要な事業拠点を選定します。重要な事業拠点は、売上高などの基準で選定することができますが、実際には企業の実態に合わせて識別します。金融庁の「財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準」では、重要な事業拠点の選定の例として、以下のような方法を取り上げています。本社を含む各事業拠点の売上高等の金額の高い拠点から合算していき、連結ベースの売上高等の一定の割合(概ね2/3 程度)に達している事業拠点を評価の対象とします。

次に評価対象とする業務プロセスを識別します。選定した重要な事業拠点において、企業の事業目的に大きく関わる勘定科目に至る業務プロセスを識別します。具体的には、売上、売掛金、棚卸資産などが含まれます。さらに、重要性の高い業務プロセスを個別に特定することも行います。財務報告の影響を考慮しながら、リスクが大きい取引を行っている業務、複雑な会計処理が必要な取引、見積りや経営者による予測を伴う重要な勘定科目に関連する業務プロセスなどが含まれます。

業務プロセス統制の文書化

業務プロセスの文書化においては、主に3点セット(業務記述書、フローチャート、リスク・コントロール・マトリクス)を作成します。文書化を効率的に行うためには、以下の手順を考慮することが重要です。

  1. リスクの高いプロセスから優先して文書化を進めます。
  2. 類似するプロセスについては、共通のフローチャートや業務記述書を活用します。
  3. 文書化の際に重要な情報を見落とさないように、チェックリストを用意します。
  4. 文書化に関わるスタッフ間での連携を確保し、作業の重複を防ぎます。

業務プロセス統制の評価

業務プロセスに関する内部統制の評価は、整備状況の評価と運用状況の評価の2つが行われます。

1.整備状況の評価

整備状況の評価では、主にウォークスルーという手法を使用します。ウォークスルーでは、特定の取引を選び、その取引の開始から会計処理までの業務プロセスにおいて、3点セットや規程・マニュアル類、帳票類との整合性を確認します。また、リスクに対して適切にデザインされたキーコントロールが設定されているかも確認します。

2.運用状況の評価

運用状況の評価では、キーコントロールに関連する帳票類をサンプリングテストによって評価します。サンプリングテストでは、ランダムに帳票を選び、キーコントロールが適切に運用されているかを確認します。サンプル数はキーコントロールの実施頻度によって異なります。

また、特定の要件を満たす場合には、前年度の評価結果を利用することができる「ローテーション評価」という方法もあります。要件としては、全社的な内部統制が有効であること、前年度の評価結果が有効であること、および前年度から整備状況に重要な変更がないことです。

このように業務プロセス統制の評価では、特定の事業拠点や勘定科目から対象とする業務プロセスを選定し、整備状況の評価と運用状況の評価を行います。整備状況の評価ではウォークスルーを使用し、サンプリングテストを用いて運用状況評価を行います。これにより、業務プロセスの内部統制の有効性や改善点を評価することが可能となります。

業務プロセス統制の不備の検討

「開示すべき重要な不備」とは、財務報告に重要な影響を及ぼす可能性が高い内部統制の不備を指します。業務プロセスの評価において、内部統制の不備が認識された場合、以下の手順で「開示すべき重要な不備」かどうかを検討します。

  • 不備の影響が及ぶ範囲の検討
    把握した不備がどの勘定科目に、どの範囲で影響を及ぼす可能性があるかを検討します。
  • 影響の発生可能性を検討
    1で検討した影響が実際に発生する可能性を検討します。統計的な確率で導き出すか、定性的にリスクの程度を把握し、それに応じた比率をあらかじめ定めます。
  • 不備の質的・金額的重要性を判断
    1と2を考慮して、不備の質的重要性および金額的重要性を判断します。金額的重要性は、一般的に「連結税引前利益※の概ね5%程度」などの基準があります。影響額と比率を掛け合わせて算出します。質的重要性は、上場廃止基準や財務制限条項、関連当事者との取引、大株主の状況などが考慮されます。※ 連結税引前利益とは連結損益計算書における税金等調整前当期純利益のことです。

上記の手順に従って、業務プロセスに関連する内部統制の不備が質的または金額的に重要であると判断されれば、「開示すべき重要な不備」とされます。不備が検出された場合、期末までに評価を完了させ、有効と判定できる状態にすることが重要です。期末時点で不備が残っている場合は、その内容や対応策に基づき、適切な対応が必要です。

決算統制

決算統制は、組織の財務諸表の作成プロセスにおいて信頼性を確保し、正確な財務情報の開示を実現するための統制です。以下で、決算統制の具体的な内容について解説していきます。

決算業務とは

決算業務は、特定の企業や組織が決算に向けて行う業務のことを指します。具体的には、以下のような業務を含みます

  1. 決算書類の作成
    経理業務で作成した帳簿や取引データをもとに、年間の全取引をまとめて決算書類を作成します。主な決算書類としては、損益計算書と貸借対照表があります。これらの書類は、企業の経営状況や財務状況を明確にし、定時株主総会で株主に報告されます。
  2. 納税金額の計算
    決算書類をもとに、法人税や消費税などの納税金額を計算します。企業は正確な納税金額を申告・納付する必要があります。
  3. 監査の実施
    決算書は、監査役による監査を受けます。監査役は、企業の財務状況や業績に対して独立した評価を行います。監査を通過した後、決算書は株主総会へ提出されます。

決算業務は、企業の財務報告の正確性と透明性を確保するために非常に重要な役割を果たします。

決算統制とは

決算統制は、企業が正確かつ信頼性の高い決算情報を提供するために設ける統制のことを指します。決算プロセス全体にわたって適切な監督と管理を行うことにより、財務諸表の正確性や法令順守の保証を確保します。企業の内部統制の一部として位置づけられ、企業の経営陣や監査役などが重要な役割を果たします。

業務プロセス統制との違い

業務プロセス統制と決算統制は、内部統制の概念の中で関連性がありますが、異なる側面を持っています。業務プロセス統制は、企業の日常的な業務プロセスにおいて、効率性や効果性の確保、リスク管理、コンプライアンスの確保などを目指して設けられます。一方、決算統制は、業務プロセスの中でも特に決算に関連するプロセスにおいて設けられる統制です。つまり、業務プロセス統制はより広範囲な業務活動を対象としていますが、決算統制はその中でも決算に焦点を当てています。
全社的観点で評価する決算・財務報告プロセスは、財務報告の信頼性を確保するために、企業グループ全体の体制として整備する仕組みです。

例えば以下のような手続きが考えられます。

  • 総勘定元帳から財務諸表を作成する手続
  • 連結修正、報告書の結合及び組替など連結財務諸表作成のための仕訳とその内容を記録する手続
  • 財務諸表に関連する開示事項を記載するための手続

決算統制の留意点

決算・財務報告プロセスの特性には、以下の点に留意する必要があります。

  1. 直接的な影響
    決算・財務報告プロセスは、企業の財務報告の最終段階で行われるため、不正や誤謬が発生すれば、直接的に財務報告の信頼性に影響を与える可能性があります。そのため、特に慎重さが求められます。
  2. 実施頻度とミスのリスク
    決算業務は通常、年に数回行われます。そのため、実施頻度が少なく、手順を見直す機会が限られています。これにより、ミスが発生しやすくなる可能性があります。注意深い作業と統制策の実施が重要です。
  3. 期末日後の是正
    決算業務の多くは期末日後に行われます。もし内部統制上の不備が発見された場合でも、その是正措置を評価基準日(=期末日)までに完了するのは難しいことがあります。そのため、統制の強化や問題の早期発見が重要です。
  4. 開示すべき重要な不備
    決算・財務報告プロセスにおいては、たった1つのミスでも「開示すべき重要な不備」として内部統制報告書に記載する必要があります。このため、正確性と信頼性を確保するための適切な統制策とチェック機構が必要です。

以上の特性に留意しながら、決算・財務報告プロセスを適切に実施し、信頼性の高い財務報告を確保することが求められます。
定期的な監視や改善活動、内部統制の文書化とトレースなどが重要な要素となります。

まとめ

業務プロセス統制は、業務の遂行における内部統制の整備・運用を指します。業務プロセス統制では、業務プロセス全体の評価や文書化が重要です。評価では、統制の有効性や不備の検討が行われます。一方、決算統制は決算業務に焦点を当てた内部統制の整備・運用です。
決算業務は決算書類の作成を含み、業務プロセス統制とは異なる点があります。

業務プロセス統制と決算統制の留意点も異なります。業務プロセス統制ではプロセス全体の評価が求められますが、決算統制ではリスク評価や役割の明確化が重要です。

業務プロセス統制と決算統制は、企業の内部統制の一環として整備・運用されるべきです。これにより、業務の効率性や信頼性を向上させることができます。