国際財務報告基準 / 国際会計基準(IFRS)とは?日本会計基準(J-GAAP)との違いやメリット
国際財務報告基準 / 国際会計基準(IFRS)とは、「世界共通の会計基準」を目指して、世界中の会計専門家が協力して作成した基準です。「国際財務報告基準(IFRS)って何?」「日本の会計基準との違いは?」「導入するとどんなメリットがある?」などと疑問に思っている方はいませんか。国際財務報告基準 / 国際会計基準(IFRS)の知識を身に付ければ、現在採用している会計基準について相対的に理解することができます。
本記事では、国際財務報告基準 / 国際会計基準(IFRS)の概要、選択可能な会計基準、国際財務報告基準 / 国際会計基準(IFRS)のメリットとデメリットについて、誰にでも分かりやすく解説します。ぜひご覧ください。
国際財務報告基準 / 国際会計基準(IFRS)とは
会計基準とは、企業の財務諸表(決算書)を作成する際のルールのことです。
さまざまな企業を同じ基準で比べるためには、共通のルールが必要になります。その会計基準の中でも世界共通の会計基準として生まれたのが国際財務報告基準 / 国際会計基準(IFRS)です。IFRSは「International Financial Reporting Standards」の略で、「イファース」や「アイファース」や「アイエフアールエス」などと読まれます。
この会計基準を主に設定しているのが、IASB(アイエーエスビー)と呼ばれる、国際財務報告基準審議会(International Accounting Standards Board)です。IASBには、世界各国から選出された会計専門家が集まっています。このIASBが、世界共通で採用できることを目標に作成した会計基準が国際財務報告基準 / 国際会計基準(IFRS)です。これまでは「IAS(アイエーエス)」と呼ばれていましたが、改訂や見直しを行いながら「IFRS」に名称変更されました。
具体的にIFRSとはIASBが公表した基準と解釈指針の総称で、以下の3つに区分される文書グループから構成されています。
- IASBが公表した国際財務報告基準(IFRS)
- IASBの前身機関である国際会計基準委員会(IASC)が公表した国際会計基準(IAS)
- IFRS解釈指針委員会が開発した解釈指針(IFRIC解釈指針)及び前身機関である解釈指針委員会が開発した解釈指針(SIC解釈指針)
日本ではこれらを総称するときに「国際会計基準」という用語が使われることがあるため、ここまで当記事ではIFRSの対訳として「国際財務報告基準」と「国際会計基準」を併記しました。しかし、「国際会計基準」は旧基準であるIAS (International Accounting Standards) と同じ用語のため誤解が生じる可能性があります。このため、これ以降は「国際財務報告基準」を用います。
国際財務報告基準(IFRS)の導入は世界各国で進んでいます。特に上場企業やグループ企業が海外ビジネスを行う際に、国際財務報告基準(IFRS)で財務諸表を作成していると、同じ基準で作成した他社の財務諸表と比較しやすくなります。
国際財務報告基準(IFRS)の特徴
国際財務報告基準(IFRS)の大きな特徴は3つあります。
- 原則主義
原則主義とは、企業の経済的実質や判断を尊重し、できるだけ基本的な会計原則だけを規定し、細かい数値設定や判断基準は設けない考え方です。このため、会計方針を選択した理由などについて、他の基準より多くの説明を求められる傾向があります。 - 資産・負債アプローチ
資産・負債アプローチとは、期首と期末の資産や負債の増減により会計上の利益を測定する考え方です。貸借対照表(財政状態計算書)に資産または負債として計上できるかどうかを優先して判断するため、経営状況を把握する上で、貸借対照表(財政状態計算書)が他の情報よりも重視されます。 - グローバル基準
全世界共通で利用できる前提で設定されているため、海外での資金調達時に投資家へ説明しやすくなります。また、定義や議論などを全て英語で統一することで、解釈のズレを抑えることができます。
日本で選択可能な会計基準
会計基準とは、財務諸表(決算書)を作成する上で必要なルールですので、どのような会計基準を採用するかによって、財務諸表の形式や金額が異なります。以前は各国の会計基準が存在しており、企業は各国の会計基準に従っていました。しかし、多くの企業がグローバルに事業展開するようになり、財務諸表を見比べたいと思っても、会計基準が異なってしまい正確な比較ができませんでした。
現在、日本の上場企業は日本の会計基準(J-GAAP)、米国会計基準(US-GAAP)、国際財務報告基準(IFRS)および修正国際基準(J-IFRS / JMIS)の4つの会計基準を適用して連結財務諸表を作成することが認められています。
なお、GAAPとは「Generally Accepted Accounting Principles」の略で、一般に公正妥当と認められた会計基準のことを指し、「ギャップ」や「ギャープ」などと読まれます。J-GAAPは日本(Japan)において一般に公正妥当と認められた会計基準、US-GAAPは米国(United States)において一般的に公正妥当と認められた会計基準を表します。
1.日本会計基準(J-GAAP)
日本会計基準(J-GAAP)は、日本独自の会計基準を指し、「ジェイギャップ」や「ジェイギャープ」と呼ばれます。一般的な日本の企業は、日本会計基準(J-GAAP)を採用している場合がほとんどです。この基準は日本企業において伝統的に使用されているため理解しやすく、日本の税制に配慮した内容になっています。
日本会計基準(J-GAAP)は、1949年に公表された「企業会計原則」をベースとして作成されています。企業会計原則は、「一般原則」「損益計算書原則」「貸借対照表原則」の3つが大きな特徴です。財務諸表の損益計算書や貸借対照表については、「損益計算書原則」および「貸借対照表原則」に基づいて作成されています。
「企業会計原則」の他にも、企業会計基準委員会(ASBJ)が公表している「企業会計基準」、「企業会計基準適用指針」、「実務対応報告」や、旧大蔵省が公表して内閣府が改正している「財務諸表等規則」、「四半期財務諸表規則」、「連結財務諸表規則」等の法令に加え、日本公認会計士協会等が公表している各種ガイドラインや日本における一般的な業界慣行などが日本会計基準(J-GAAP)を構成しています。
2.米国会計基準(US-GAAP)
米国会計基準(US-GAAP)は、アメリカで採用されている会計基準を指し、「ユーエスギャップ」や「ユーエスギャープ」と呼ばれます。現在は、アメリカの企業の会計基準を取りまとめている米国財務会計基準審議会(FASB)が発行する「ASC」(Accounting Standards Codification)が主な構成要素です。
「ASC」の他にも、米国財務会計基準審議会(FASB)が公表している概念書(Concepts Statements)、米国公認会計士協会(AICPA)が公表している論点整理(Issues Papers)、アメリカにおける一般的な業界慣行などが非権威的(Nonauthoritative)な会計ガイダンスとして米国会計基準(US-GAAP)を構成しています。
米国会計基準(US-GAAP)は、国際財務報告基準(IFRS)と同様、多くの国が上場企業に採用を認めています。
3.国際財務報告基準(IFRS)
当記事が解説している国際財務報告基準(IFRS)は、EU域内の上場企業に対して2005年に導入が義務化されています。前述した国際財務報告基準(IFRS)の特徴にもとづくため、仕訳を作成するときのルールに加えて、概念や用語も日本基準や米国基準とは異なります。例えば、貸借対照表は「財政状態計算書」、固定資産は「非流動資産」と呼ばれ、損益計算書は「包括利益計算書」となり、資本取引以外による純資産のすべての変動を記載します。
日本においても、海外の投資家から資金調達を行っている企業は米国会計基準または国際財務報告基準のいずれかを導入していることが多いでしょう。
4.修正国際基準(J-IFRS/JMIS)
修正国際基準(J-IFRS / JMIS)はJ-GAAPとIFRSのあいだに位置付けられた会計基準で、国際財務報告基準(IFRS)の内容を日本の経済状況に合わせて修正したものです。「ジェイ・イファース」、「ジェイ・アイファース」、「ジェーミス」などと読まれます。実際に国際財務報告基準(IFRS)へ移行するには懸念がある企業のために誕生しましたが、2023年3月末時点ではJ-IFRSを適用する企業はまだ存在していません。
国際財務報告基準(IFRS)への移行に際して、のれんの償却などの大きな課題を日本会計基準に寄せて計上できるのがJ-IFRSの特徴です。
国際財務報告基準(IFRS)導入のメリット
国際財務報告基準(IFRS)を導入することで、大きく2つのメリットがあります。
1.国際的な資金調達に役立つ
日本会計基準(J-GAAP)のままだと、海外の投資家には分かりづらいため投資するにも不安が残るでしょう。国際財務報告基準(IFRS)を導入することによって海外の投資家から理解されやすく、国際財務報告基準を採用している他の企業と比較されやすくなるため、海外の投資家から出資を受けられるチャンスが広がります。
また、海外の証券取引所や規制当局などに財務情報を報告する場合、通常だと、日本会計基準から海外の会計基準に合わせて財務諸表をコンバージョン(変換)する必要があります。しかし、国際財務報告基準を導入していれば財務諸表を書き換える必要がないため、海外への上場準備や規制対応等の手間が省けて資金調達しやすくなります。
2.国際的な企業運営に役立つ
自社グループ会社間で財務情報の比較がしやすくなります。例えば、国内と海外の子会社同士を比べた時、お互いの会計基準が異なると比較のために調整計算が必要となります。国際財務報告基準を導入することで、グループ内において同じ会計方針にもとづいた財務情報を把握できるため、企業の運営方針を考えるためのデータを同じ基準で揃えるコストを削減できます。
国際財務報告基準(IFRS)導入のデメリット
反対に、国際財務報告基準(IFRS)を導入することで起こるデメリットは大きく2つあります。
1.時間と費用がかかる
国際財務報告基準(IFRS)を導入するためには、ある程度の費用の発生は避けられません。一般的に、企業規模が大きいほど必要な費用も高額になります。また、導入完了までには時間もかかり、グループ全体で数年かけて移行するケースもあります。導入後も、運用する担当者に対して継続的に教育を行わなければなりません。国際財務報告基準(IFRS)の導入には、相当の費用と時間がかかるでしょう。
また、現在の日本企業は、原則として日本基準(J-GAAP)による個別財務諸表も作成する必要があります。グループ内の複数の企業の財務諸表を1つにまとめて作成する「連結財務諸表」を各社の「個別財務諸表」を合算・調整して国際財務報告基準(IFRS)に沿って作成しても、個別財務諸表は日本会計基準で作成しなければならないため、基準間差異を調整する時間と労力は必要でしょう。
2.資産・負債の範囲が広くなる
日本会計基準(J-GAAP)から国際財務報告基準(IFRS)へ移行する際、今までは貸借対照表に載せていなかったリースなど※が含まれて、資産・負債の範囲が広がります。このため、ROA(総資産利益率)などの指標が悪化する可能性があります。
※ 2023年5月に発表された公開草案「リースに関する会計基準(案)」が確定すれば、2026年4月以降リースにかかる資産・負債の範囲について原則として基準間差異がなくなると考えられます。
まとめ
国際財務報告基準(IFRS)の導入は、企業にとって大きなメリットをもたらします。国際的な資金調達の容易性、国際的な企業運営の効率向上がその中心です。ただし、IFRSの導入には時間と費用の負担増に加えて、貸借対照表が膨らむ可能性があるというデメリットがあります。このため、日本会計基準(J-GAAP)との違いを調査し、透明性と信頼性を確保した導入意思決定が不可欠です。企業はこれらのポイントを把握し、適切な戦略を構築することで、グローバルな競争環境においてより有利な位置に立つことができるでしょう。