【必見】減損会計とは?目的・計算方法を分かりやすく解説
「減損」とは、今後の企業経営に深く関わる会計処理の手法です。
そもそも減損会計とは何か?減損会計をしたらどんな影響があるのか?減損会計の処理方法は?などと疑問に思っている方は多いのではないでしょうか。
減損会計は、簡潔に言えば「将来の収益で投資額を回収できないと判断した場合、早めに損失を計上させるための会計処理」です。固定資産の収益性が低下し、実質的な価値が帳簿価額を大きく下回っている場合、適切な減損処理を行って財務諸表へ反映します。ただし、減損損失を計上すると事業投資が回収不能となったことを投資家や債権者などに通知することになります。このため、関係者に対して丁寧で根拠のある説明が不可欠です。
ここで、本記事では減損の計算方法、減損会計の意義や手順について焦点を当てています。これらを理解することで、減損会計の目的を把握し、計算方法と手順を知ることで、より正確に財務諸表を読む手助けとなるでしょう。ぜひ最後までご一読ください。
減損とは
「減損」とは、固定資産の収益性が悪化し、投資額の回収が見込めなくなった状態を指します。このため、減損会計は、投資の失敗を踏まえて正しい帳簿価額に修正する会計処理といえます。
ここで、1つの事例をご紹介します。例えば、あなたが経営する会社が10億円で別の会社を買ったとしましょう。その会社に対して10億円以上の価値を感じ、将来的に10億円以上の儲けがあると信じて10億円を投資しました。初めの業績は好調でしたが、徐々に経営状況が悪化、そして現状は3億円の事業価値しかなく、この先も回復が見込めないと判断しました。そこで、買った会社に対応する子会社株式勘定の帳簿価額を、実際の価値である3億円に引き下げる会計処理を行います。これを「減損処理」と言います。
※ 後述の通り、子会社株式は「固定資産の減損に係る会計基準」ではなく「金融商品に関する会計基準」が適用されます。しかし、分かりやすいケースですし、「減損会計」と類似した減損処理が行われるので、ここではあえて例示しました。
企業の財務諸表は、投資家や株主がその企業に対して、投資をするか否かを判断する際の重要な書類です。減損が本当に必要であるのか、正しい判断をしなければなりません。
減損対象
減損会計は、中小企業に対しては義務ではありませんが、株式上場企業および会社法上の大会社には義務とされています。
減損の対象になる固定資産は以下の3つです。(企業会計基準委員会が定める企業会計基準適用指針第6号「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」)
①有形固定資産
1年以上の長期にわたって利用される資産のうち、形があって目にも見えるもの。例えば、建物、土地、看板、社用車などです。
②無形固定資産
1年以上の長期にわたって利用される資産のうち、形がなく目に見えないもの。例えば、著作権、商標権、特許権、のれんなどです。
③投資その他の資産
上記の2つに含まれない資産のことです。例えば、長期前払費用などがこれに該当します。
減損会計基準以外の基準で減損する固定資産
類似した会計処理が行われるものの、「固定資産の減損に係る会計基準」とは異なる会計基準にもとづいて減損処理を行う固定資産には次のようなものがあります。
- 「研究開発費等に係る会計基準」において無形固定資産として計上されている市場販売目的のソフトウエア
- 「金融商品に関する会計基準」における金融資産(子会社株式など)
- 「税効果会計に係る会計基準」における繰延税金資産
- 「退職給付に関する会計基準」における前払年金費用
減損の計算方法
では、実際の減損損失はどのように計算するのでしょうか。
資産に計上している帳簿価額を、実際の回収可能価額(現状に見合った価値)まで引き下げ、その差額が減損損失になります。
帳簿価額 ー 回収可能額 = 減損損失 |
ここでの回収可能額とは、「使用価値」または「正味売却価額」のいずれか高い金額を採用します。
「使用価値」とは「その資産をそのまま使用したら将来どのくらいの価値を生み出すのか?」を表した、割引後将来キャッシュ・フローのことを言います。ポイントは割引処理を行って時間経過による価値の減少を反映することで、より正確な数字を割り出すことです。割引前将来キャッシュ・フローと間違えないように気をつけましょう。割引前将来キャッシュ・フローは後述の「減損会計のフロー」部分でご紹介します。
「正味売却価額」とは「もしその資産を今すぐに売却したとしたら、いくら回収できるのか?」を表した売却金額になります。
この「使用価値」と「正味売却価額」を比べて、金額の高いほうを回収可能額として計算します。 つまり、固定資産をこの先も使用した場合に回収できる実際の金額と、今すぐに全て売却して回収できる金額を比べるということです。そこで高い金額のほうを帳簿価額から差し引いて、減損損失を計算します。
※ このコンセプトは減損会計基準以外の基準で減損する固定資産にも適用されるため、後述の減損会計のフローの④減損損失の測定に先立って記載しました。
減損会計の意義
減損会計とは、固定資産の収益が大幅に悪化したことで、投資額の回収が見込めないと判断した際、帳簿価額を回収可能価額まで引き下げる処理のことを指します。
では、なぜ減損会計を行う必要があるのでしょうか?
減損会計を行う理由は、企業が保有している固定資産を実際の価値に合わせた価額で、財務諸表に記載して提出する必要があるためです。
投資家や株主は、企業の財務諸表を検討し、投資する価値があるかどうかや将来の利益見通しなどを判断しています。財務諸表の内容が誤っていたり、誤解させるような内容だったりすると、信頼問題に結びつきかねません。特に大企業や上場企業の減損会計は、相当な金額が対象になる可能性があります。このため、減損損失を計上する場合、当初の見込みよりも収益性が大幅に低下していることを、株主や投資家などの利害関係者に丁寧に説明することが不可欠です。
また、減損損失を計上して資産の価値を減少させることで、減価償却費などのコストを圧縮して翌年以降の利益を増加させるメリットがあります。このため、将来的に企業経営に対するマイナス影響を修復する方法のひとつであるとも言えます。
減損会計のフロー
減損会計を行う手順は以下の通りです。
①資産のグルーピング
一般的に大企業の事業は1つではなく、様々な種類の固定資産が様々な場所や用途で利用されています。まずは1つ1つの資産をグループ化して考え、そのグループ単位で減損会計を検討します。
グルーピングを行う上で、まずは企業で作成されている業績資料を確認します。資料は経営管理上、複数の種類に分けられて存在することがほとんどです。この資料単位でグループを分けて固定資産を考えてみるのが良いでしょう。
また、グルーピングを行う際は「収益を生み出すための目的と関係性」に着目して考え、実施していきます。
具体的なグルーピングの方法を事例とともにご紹介します。
【事例】
- 事業Aは、商品Aを製造しています。
- 事業Bは、商品Aを使用して商品Bを製造しています。
- 事業Cは、商品Cを製造して販売しています。
- 事業Dは、商品Cを使用して商品Dを製造しています。
この場合、事業Aと事業Bは商品を製造するのが目的で、事業Bは商品Aを使用しているため、1つの目的物(商品B)を製造していると考えれば、同じグループにすることができます。
事業Cと事業Dは、似ていますが同じグループにはなりません。事業Cは製造から販売まで行っていて独立しており、事業Dは、商品Cを使用して商品Dを製造しているため、それぞれ目的が異なります。よって別のグループとして考えるのが妥当です。
このように、いくつかの固定資産をグループ単位に分けることをグルーピングと呼びます。このグループごとに、減損の可能性を調査していきます。
②減損の兆候
経営の悪化を冷静に見直し、減損の可能性があるかを判断します。簡単に言えば、事業の赤字がどれだけ続いているかを確認し、今後も続く見込みがあるかを判断することです。
減損の兆候は、「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」(企業会計基準委員会が定める企業会計基準適用指針第6号)によって規定されています。
- 営業活動から生ずる損益又はキャッシュフローが継続してマイナスの場合
- 使用範囲又は方法について回収可能額を著しく低下させる変化がある場合
- 経営環境の著しい悪化の場合
- 市場価格の著しい下落の場合
- 共用資産の減損の兆候
- のれんの減損の兆候
③減損損失の認識
実際の減損損失がどれだけなのか金額を計算し、現状価値が帳簿価額を下回るかを判断します。
例えば、帳簿価額が100億円だとしましょう。割引前将来キャッシュ・フローが80億円だった場合、20億円が下回っている状態となります。これが減損損失の認識になります。
重要なのは、「割引前の将来キャッシュ・フロー」で計算することです。割引後の価格で考えてしまうと、減損損失の認識の可能性が高まってしまいます。割引前の正確な価格で判断し、確実な結果を得た上で判断しましょう。
④減損損失の測定
減損損失が認識された場合、減損の計算方法を使用して具体的な算定に入ります。再度計算方法を確認します。
帳簿価額 ー 回収可能額 = 減損損失 (回収可能額とは、使用価値と正味売却価額のいずれか高い金額) |
まとめ
「減損」とは、経営が大幅に悪化し固定資産の投資額回収が見込めないと判断した時点で、正しい帳簿価格に引き下げることです。これは今後の会社経営に大きく関わることなので、専門的な知識と慎重な判断が必須になります。
減損を行うと、一時的に経営が悪化します。しかし、将来のコストを減らすことで経営回復につなげることも可能です。赤字が続いて将来が不安といった場合、状況を回復させることが出来る可能性があるため、慎重に検討してみましょう。
また、大手企業や上場企業は義務化されているため、減損の兆候を年次以上の頻度で評価し、財務諸表と誤差が生じていないか確認する必要があります。