AI導入で監査法人の「働き方改革」はどこまで進むか?

2025-06-11
2025-06-09

ジーニアルAIがもたらす業務改革の現実解

監査業界が抱える構造的課題

監査業界では、長時間労働、繁忙期の偏り、人材の定着率の低下など、「働き方」に関する課題が根強く残っています。公認会計士・監査審査会が公表した「令和6年版モニタリングレポート」によると、2023年3月末時点での公認会計士登録者約3万4,000人のうち、監査法人所属者は約1万4,000人と、全体の約40%にとどまります。これは、2013年3月末時点の約50%から大きく低下しており、会計士の「監査離れ」が進んでいることを示しています。

また、上場企業では、大手監査法人から準大手・中小監査法人への変更が進んでおり、中小監査法人の役割が拡大しています。その一方で、ISQM(国際品質マネジメント基準)や改訂品質管理基準への対応も求められるなど、監査品質管理に対する要求は一層厳しくなっています。グローバル化やIT化の進展により、会計基準や企業活動も複雑化し、監査手続に必要な工数も増加傾向にあります。

このような状況下では、単なる人手の補充だけでなく、監査業務そのものの設計を見直すことが求められています。

ジーニアルAIとは?

「ジーニアルAI」は、Excel上で動作するAIアドインで、書類の入力や照合業務などを効率化するツールです。

マウス操作だけで簡単に書類のテキストや表を転記できる「クリップ機能」に加え、生成AIを活用したデータ転記機能も備えています。転記元と転記先が紐づけられるため、監査手続の追跡性も向上します。

売上明細と注文書、請求書、納品書などの証憑突合も自動化でき、クラウド会計ソフト「freee会計」とも連携可能です。さらに、生成AIによる書類の翻訳や要約機能も搭載しています。加えて、現在はベータ版ですが、開示資料の変更箇所を検出する機能や数値の整合性をチェックする機能もあります。

このように、「ジーニアルAI」は監査実務上の「地味だが時間のかかる作業」を得意とし、業務効率化の即戦力として導入が進んでいます。

「働き方改革」への貢献

時短効果とレビュー効率の向上

「ジーニアルAI」により、書類整理やチェック作業が効率化されます。また、書類と監査調書とが紐付けられた状態でレビューできます。これにより、繁忙期における残業時間の削減に貢献します。

教育・育成への寄与

経験の浅い職員でも、AIが補助することで早期に業務を遂行できるようになります。たとえば、「テーブルクリップ」によって、PDFや写真から表形式のデータを一括でExcelに転記することが可能です。例えば、いわゆる「写経業務」の負担をこれで軽減できるので、心理的ストレスの低減にもつながります。

電子監査調書へのスムーズな移行

ジーニアルAIはExcelベースのツールであるため、電子監査調書システムとの親和性も高く、オンラインでの共有やテレワークへの対応も容易です。属人化を防ぎ、チームでの業務共有を促進します。

現場のリアルと導入課題

現場では「AIで本当にミスを防げるのか」「依存しすぎると会計士の能力が落ちるのでは」といった懸念もあります。しかし、ジーニアルAIは監査人の「代替」ではなく「補助」を目的としており、AIが提示する結果を監査人がレビューすることで、精度を保ちつつ効率化が可能です。

使い慣れたExcel環境で利用できるため、DXに対する心理的抵抗も低く、「紙からデータへ移行する監査調書作成の必須ツール」としての位置づけも高まりつつあります。

監査の未来像と提言

今後の監査法人における「働き方改革」は、制度や福利厚生だけでは限界があります。また、非常勤メンバーの追加採用だけでは、監査の品質と安定供給を両立させるには不十分です。

業務負荷を構造的に見直す必要があり、AIツールの導入はその有力な手段となります。時短だけでなく、業務の平準化、テレワークへの対応、育成・教育の支援といった側面からも、AIによる補助は今後のスタンダードとなるでしょう。

ジーニアルAIは、準大手を含む十数の監査法人で導入されており、マネジメントの視点からも「現実的な解決策」として高く評価されています。将来的には、リスク評価、会計上の見積り、監査意見の形成といった高度な判断領域でも、AIの補助が進むと見込まれています。

今こそ、監査の効率と品質を両立させる第一歩として、AIを活用した業務変革に本格的に取り組むべき時ではないでしょうか。

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