巡回監査とは?重要性や手順を徹底解説
巡回監査は、主に税理士業界で使用される用語です。
「巡回監査ってどんな仕事?」「巡回監査の目的は?」「巡回監査士とは?」など、巡回監査についての理解が不足している方も多いのではないでしょうか。
そこで、この記事では巡回監査の意義や重要性、そして具体的な手順について詳しく解説します。税理士業界で働く方だけでなく、他の方も対象として、巡回監査に関する理解を深め、より優れた会計記録を作成し、「信頼性と正確性」の構築に向けて一歩進んでいきましょう。
巡回監査とは
巡回監査とは、分かりやすく言うと、「税理士事務所や税理士法人が契約しているクライアントに対して毎月1回訪問し、会計記録が適正か確認したり経営方針をサポートする」ことです。ただし、巡回監査を行っている事務所によって訪問回数が異なるため、必ず毎月1回という決まりはありません。巡回監査を実施していない税理士事務所も存在します。
巡回監査の内容は、実際に訪問することで会計記録と経営状況に相違はないか確認し、会計記録の適法性、正確性や適時性を指導します。また、会計記録をもとに経営状況を見直し、今後の課題や問題の解決について経営者と一緒に話し合いを行う場です。
経営をする上で、会計上の専門知識が必要になる場面は珍しくありません。この巡回監査の実施によって、適宜アドバイスを受けられるため、より正確性の高い会計報告が行えます。
巡回監査の意義
巡回監査をすることによって、税理士が会社のことをより深く理解できます。そのため、経営に対するアドバイスや提案をしてもらえたり、精度の高い決算報告ができます。会社側は、専門知識を適宜質問できる環境があるので安心です。決算報告の精度が高ければ、税務調査がなくなる場合もあり、金融機関からの信頼性が増します。
会計業界の大手であるTKCグループが定義している巡回監査の意義は以下になります。
巡回監査の意義
『TKC会計人の行動基準書 引用』https://www.tkc.jp/tkcnf/about/target/target2/
- 巡回監査とは、関与先を毎月及び期末決算時に巡回し、会計資料並びに会計記録の適法性、正確性及び適時性を確保するため、会計事実の真実性、実在性、網羅性を確かめ、かつ指導することである。
- 巡回監査においては、経営方針の健全性の吟味に努めるものとする。
- 巡回監査は、毎月行う月次巡回監査と期末決算時に行う決算巡回監査とに分けられる。
会計処理と計算書類作成は自社の業績把握や分析、経営戦略に役立つものであり、適切な経理体制の整備は健全な企業の発展に不可欠な業務です。以下の5つの視点からその重要性が示されます。
- 帳簿の証拠能力の確保
企業が通常業務で作成した会計帳簿は法的に証拠能力がありますが、巡回監査により関与先の帳簿に高い証拠能力を確保し、税務当局の是認を得ることが期待できます。 - 会社法等に準拠した適正な会計処理の実施
会社法等に基づく正確な会計処理を確保するために有用ですので、巡回監査により企業の社会的信頼性が向上します。 - 関与先への会計指導と経理担当者等の育成
特に中小企業では経理担当者の専門知識が不足していることが多いため、巡回監査を通じて正しい起票や内部統制の指導が行え、経理担当者の育成が可能です。 - 関与先への経営助言
経営者が求めるタイムリーな情報提供を実現するには、巡回監査により現場の生の声を聴きながら財務データの正確性を確保することが役立ちます。 - 税理士法の責務の遂行
税理士法は「真正の事実」に沿った税務報告を行う責務を課しています。巡回監査により正確な事実を確認することで、この責務を遂行することができます。
巡回監査士と巡回監査士補とは
「巡回監査士」と「巡回監査士補」が存在することをご存知でしょうか。ここでは、巡回監査士と巡回監査士補の違いをご紹介します。
巡回監査士
巡回監査士とは、公益社団法人日本能率連盟が称号している認証資格です。主に税理士事務所や税理士法人に勤務する方を対象とした資格で、2年以上の実務経験があれば受験資格があります。
巡回監査士試験の合格率は、過去5年を見ても20%前後となっています。決して簡単ではありませんが、税理士試験よりは易しいと言われています。なお、巡回監査士は2年ごとに更新となり、その間に指定の研修を受講しなければなりません。また、巡回監査士の資格は、巡回監査士補の資格取得が受験要件となっています。したがって、まずは巡回監査士補を目指しましょう。
巡回監査士補
巡回監査士補とは、TKCグループが実施している認定資格です。TKCグループに所属していない方も、税理士事務所または税理士法人での実務経験が半年以上あれば受験可能です。巡回監査士補も過去5年で合格率20%前後となっており、資格取得は容易ではありません。
どちらも専門性が求められるため、日本能率連盟やTKCグループから公式に認められた方に与えられる資格です。資格を持っていなくても巡回監査を行うことは可能ですが、資格を有することでクライアントからの信頼度が高まり、業務において有益とされます。
TKCグループでは、毎月クライアントへの対応として巡回監査を実施しています。TKCグループに所属している方にとっても非常に役立つ資格であり、TKCグループに属していない方も巡回監査を実施する職場で勤務している場合は取得を検討する価値があります。
巡回監査の手順
巡回監査の手順は、実施している事務所の方針によって異なりますが、お客様の決算処理を適切にサポートするという目的は共通しています。また、クライアントの悩みを解決するためのヒアリングも行われることがあります。
巡回監査のおおよその流れは以下の通りです。
- 領収書や請求書などの原本資料が適切に保管・管理されているか確認
- 監査月において、不自然な取引や特殊な取引がないか確認
- 財務会計ソフトへ取引内容が正確に入力されているか確認
- 領収書や請求書の内容を突合し、訂正が必要な箇所があれば修正
- 疑問点や不明点をヒアリングして、適切な会計記録を作成するよう支援
- 経営計画や事業計画を見直し、業績を振り返り、前期と比較
- 翌月の訪問日程を決定して終了
TKCグループでは、平成21年6月から巡回監査支援システムを導入しています。このシステムは、『巡回監査報告書(含む決算監査事務報告書)』に基づく月次巡回監査および決算巡回監査の業務を、業務プロセスに沿って実施できるものです。巡回監査支援システムの活用により、より正確で適格な監査の実施が期待できます。
まとめ
巡回監査における手順とその重要性に焦点を当てました。巡回監査は税理士がクライアントに定期的に訪問し、会計記録の適正性を確認し、経営方針のサポートをすることです。手順は事務所ごとに異なりますが、原本資料の確認から取引の検証、財務ソフトの確認、そして経営のヒアリングまで包括的な作業が行われます。
特にTKCグループでは、平成21年6月より導入された「巡回監査支援システム」が、監査業務の効率向上や正確性の向上に寄与しています。このシステムを活用することで、監査の報告書作成や要注意科目の抽出がスムーズに行え、レポーティング機能や検閲も強化されています。
経営者にとっては、巡回監査が経営戦略の見直しや問題解決の場となり、正確で信頼性の高い会計データが提供されることで、金融機関からの信頼も高まります。巡回監査士や巡回監査士補の資格取得は、より信頼性のあるサービス提供に繋がり、経営者とともに企業の成長を支える重要な要素と言えます。